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コラム第259話:未来を切り開く開発型企業経営に求められる二つの文化とは?


「先生、私は、失敗しても良いと思っているのですよ。」

先ほどまで開発者を前に「必ず成功させよう!」と熱く語っていた社長が、開発者がいなくなったところで、ほほ笑みながら、こっそり打ち明けてくれました。

この社長は、会社目標を毎年達成させています。社員に会社目標の達成を強く求めており、社内には、ピリッと引き締まった独特の空気があります。そこには、何としても達成させる、いわゆる必達文化が育っています。そんな必達文化を育てた社長とは思えない発言です。それこそ、日頃目標の達成を強く求められている社員が聞いたら、ビックリしてひっくり変えるような言葉です。中には、社長の気でも狂ったかと思う社員が出てくるかもしれません。

しかし、社長はいたってまじめです。にこやかに「失敗しても良い」と言ってはいますが、本気で、真剣に語っています。にこやかな笑顔の裏に、本気と覚悟が隠れています。なぜなら、社長は、必達を求め続けたが故に、その必達文化の弊害を知り、必達文化だけでは、会社を経営できないことが骨身にしみてわかっているからです。わかっているが故の冒頭の発言なのです。

この社長が、痛感し対策に乗り出した必達文化の弊害とは、既存の技術、既存の製品、既存の事業と、その延長線(改良)の範囲しかできなくなってしまっていることです。そのために、目標は達成していても、業績が頭打ちになっていることです。

なぜ、必達文化は、そのような弊害を生むのでしょうか?

必達とは、裏を返せば、失敗が許されないということになります。その結果、業務のあらゆる選択、その決断が確実な方向に向かいます。既にわかっていること、既に見えていること、実績があること、既に他社がやっていること、今やっていることの延長線・・・これらの方向を選択します。その結果、既存の技術、既存の製品、既存の事業と、その延長線(改良)しか選択しなくなり、目標は達成しても、業績が頭打ちになってしまいます。

一方で、「これではいけない、新しく開発しないと」と、必達文化のまま、新規開発に挑戦してしまうと、事態は最悪の方向に向かいます。「新規開発に挑戦する。そしてそれを必ず命がけで成功させる。」こう意気込んでしまうと最悪の事態を迎えます。いきなり挑戦して成功できるほど甘くはないからです。それにも関わらず、必達文化のまま、意気込んで経営資源を過度に投入して命がけで挑戦してしまっては、本当に会社の存続を危うくしてしまいます。そして、そんな挑戦をしてしまった結果、二度と挑戦できなくなってしまいます。

このようにして、企業は、既存の技術、既存の製品、既存の事業と、その延長線(改良)の呪縛から、逃れられなくなります。必達文化は、この呪縛の元であり、それを強化させてしまうのです。

自社をこれらの呪縛から解き放ち、新しく開発していくためには、必達文化とは異なる文化が必要です。新しく開発していくためには、わからない世界、わからない分野、わからない技術に進出していかなければなりません。こうした未知の世界、未知の分野では、必達はできません。必達を求めてしまうと、未知の世界、未知の分野には踏み込めません。踏み出すには、別の文化が必要なのです。

その文化とは、「試す文化」です。

未知の世界では、試し、失敗しながら学ぶ、失敗しながら学び高める、失敗を重ねて成功させる、失敗を続ける覚悟が経営者に必要になります。そうし試す文化を社内に育てなければならないのです。

難しいのは、この試す文化と必達文化の両立です。なぜなら、これら二つの文化は、相反する文化だからです。必達文化は、試すことを否定します。試す文化は、必達を否定します。互いに互いを否定しあう文化です。この相反する二つの文化のバランス取りが、極めて難しいのです。

この両方の文化を育てバランスをとることができるのは、経営者しかいません。このバランス取りは、口で言うのは簡単ですが、極めてシビアで、極めて難しいことです。二つの文化の特質を正しく理解し、正しく認め、正しく使い分け、正しく推進していかなければなりません。とても難しいことですが、世の名経営者は、この二つの文化のバランスを取れる、バランス感覚にとても優れています。

冒頭の社長は、既にこのことに気づいています。そして、そのための意識改革、組織体制づくり、仕組みづくりを始めています。既に、試す文化づくりを始めています。冒頭の笑みは、その覚悟のほほ笑みなのです。

御社には、試す文化がありますか?
相反する二つの文化を育て、バランスをとっていますか?