コラム第239話_経営資源を破綻させずに開発をやり切るために経営者に求められること

「まだできないのか?もっと急げ。」
「もうこれ以上は限界です。」
「お客さんを待たせてしまうぞ。」
「そうは言っても、残された時間ですべてはやり切れません。どれか止めさせてください。」
「・・・。止めて良いものは無い。全部必要だ。」
「では、人を増やしてください。」
「そんな急に増やせるわけがないだろう。それくらいわかっているはずだ。とにかく急げ。」
「・・・」
社員の最後に残ったモチベーションが、今まさに音を立てて崩れていきます。
「いついつまでにやりたい」
「人を増やすか、仕事を減らすか?」
「人は急には増やせない。それに止めて良い仕事なんて無い」
これは、開発中の開発者と経営者との間で交わされるよくあるやり取りの一コマですが、多くの場合、問題は解決されないまま強引に開発が進められ、様々な軋轢や後遺症を社内に残します。これが積み重なると、やがて取り返しのつかない問題を引き起こします。そうなってから、ご相談に訪れるケースもあるのですが、そうなる前に手を打つことが望ましいのは、言うまでもありません。
このようなケースで、経営者と開発者の双方が、まず、改めて認識すべきことは、どんなに増やしても、経営資源は有限である、ということです。
こう言うと、「そんなことは分かっている」という表情をよくされるのですが、真にこのことを理解していれば、上記の問題は起きないはずです。
経営資源が有限であるということは、どういうことかと言うと、やるべきことややりたいことをすべてやろうとすると、必ず経営資源は破綻するということです。つまりは、すべてをやろうとしてはいけない、ということなのです。これを理解していないと、経営資源は破綻し、期日に間に合わなくなります。そうしないためには、まず、経営者はすべてを求めない、開発者はすべてをやろうとしない、ことなのです。
ところが、これを聞いてもなお、すべてをやろうとする癖は簡単には抜けません。そこには、安全志向があります。
安全にやろうとすれば、理想はすべてをやることです。本来、省けるものはありません。省けば、その分、リスクが生じます。製品開発の現場でよくあるケースは、品質と機能のどちらを取るかという選択です。別の言い方をすれば、品質と機能のどちらを捨てるのか、という選択です。こう聞くと、現実の難しさがわかると思います。
機能を削れば、お客さんが買わなくなるリスクがあり、品質を削ればクレームになるリスクがあります。どちらも削るわけにはいきません。さらに選択を難しくするのが機能別の組織です。営業部門は機能を削るわけにはいかず、機能を削る選択には首を縦にふりません。一方、品質部門は品質を削るわけにはいきません。品質を削る選択に首を縦に振ることは絶対にありません。どちらかを削って何かあれば責任問題になります。仮に品質部門の承諾を得ないまま品質を削って問題を起こせば、すべての責任が開発者に向かいます。それがわかっているので、開発者にそんな選択はできません。安全な選択は、すべてをやる、になってしまいます。こうして、経営資源は不足、そして破綻へと追い込まれます。
これを解決するためには、最高責任者である経営者が解決策を示さなければなりません。限られた経営資源の中で開発を上手く速く回す企業では、開発を始める前から、経営者が、どのように限られた経営資源の中で開発を回していくか、その指針を示しているのです。
御社は、有限の経営資源の中で、どのように開発を回すのか、その指針を示していますか?