コラム第224話:社員の創造力を伸ばす社長が日常的にしている単純な質問

これから何を開発するか、ある企業の議論に参加していた時のことです。
開発者から、こういう開発をやってはどうかとの案が出てきました。その内容を聞いていると、だんだんとある疑問が頭の中で大きくなってきました。一通り説明が聞き終わったところで、その疑問について質問しようとした正にその時、横にいた社長が、その質問をしてくれました。
「ところで、それ、お客さんには、どんなメリットがあるの?」
「それは、値段が安くなりますし、それに・・・・、それから・・・・」提案者は、いくつか列挙しながら答えました。
「うーん、弱いな。それでお客さんは買ってくれるかな?」
「・・・」
「もう一度、考えてみよう」
社長の適切な対応に、全く口をはさむことはありませんでした。
社員の関心はどうしても狭くなりがちで、自社や自分達のメリットばかりを考える傾向があります。そういう時は、この社長のように経営者が社員の視野を広げてあげる必要があります。
ところが、あろうことか、社長が自社のメリットばかりに関心を持ち、そこを社員に執拗に求め続ける方がいます。こうなると、社員は、ますます自社のメリットばかりを考えるようになります。自社の技術や設備が活かせるというメリットばかりを考えて、そういった取り組み案を考えるようになるのです。
そういった案に対して、「お客さんのメリットは?」とたずねると、いくつか思いついたメリットを後から取ってつけ足した回答が返ってきます。当然、そのメリットは、非常に弱いものになります。とても、お客さんに魅力的に映るものにはなりません。
客観的な目で見ると、自社にメリットのある案をお客さんに押し付けておいて、お客さんにもメリットがあるのだから、使え、と言おうとしているように見えます。これでは、お客さんにメリットを生む創造性は発揮されず、社員の創造力は鍛えられません。
必要は発明の母と言います。創造力は、お客さんの必要性から生まれます。そして、その必要性は、お客さんのことを想像する想像力から得られます。創造力を発揮し、価値ある製品を生み出すには、お客さんに対する想像力が欠かせないのです。
自社の技術や設備から考えても、お客さんへの想像は膨らまず、創造力は鍛えられません。
お客さんのメリットを懸命に想像し、お客さんに対して自分たちに何ができるかを必死に考えること。これによって、創造力が育まれ、創造力が発揮されるのです。
冒頭の社長は、「ところで、それ、お客さんには、どんなメリットがあるの?」このたった一言で、開発者の想像力と創造力を刺激したのです。次回のこの社員からの提案は、必ず、数段レベルが高いものになるはずです。
逆に、「自社の技術や設備を使って、もっと画期的なことができないのか?」そんな問いかけをしていては、いつまで経っても創造力は鍛えられず、創造性のある案は出てこないのです。
御社は、社員の創造力を引き出していますか?
自社のメリットばかりを要求し、社員の視野を狭めてはいませんか?